最期に見せたい景色~おばあちゃん、大好きだよ~ | 旅葬・葬儀・家族葬の巡輪偲(じゅんりんさい)

プレスリリース

最期に見せたい景色~おばあちゃん、大好きだよ~

【菜の花畠に入り日薄れ見わたす山の端霞ふかし】

この時期になると祖母が口ずさむ、おぼろ月夜を思い出す。
夕暮れ時の菜の花畑の美しさが広がるような、この一節が大好きだ。

私にとって祖母は憧れの女性である。
茶道を嗜み、さらりと着こなす着物姿がなんとも美しかった。

【おもてなし】は茶道にあり

祖母がなによりも大切にしていた事。
友人を招くときは、その友人を想いながら準備をしていた。

お道具の組み合わせ、どんなお菓子を用意するか、掛け軸はどうしよう。
それらが決まると、最後の仕上げはお花。
友人を想いながら準備する祖母は本当に生き生きとしていた。
だから、一度も同じ茶室を見た事はない。

一碗のお抹茶を堪能してもらうのにこれだけの想いを込めていた祖母。

一緒に住んでいたこともあり、幼少の頃はそんな祖母をいつも見ていたが、
中学、高校となると部活で祖母と過ごす時間はめっきり減った。
大学は地元を離れ、一人暮らし。
長期休暇の時にしか中々地元に帰る事はなかった。

帰った時はいつも笑顔で
『おかえり、お抹茶飲むかい?』

祖母の抹茶は地元に帰ってきたと実感できるものになっていた。

就職し忙しくも充実した日々を過ごしていたある日、祖母が体調を崩して入院した。
何日にも及ぶ検査の結果、がんであることがわかった。
転移もしており、ステージⅣとの診断。
手術もできない箇所で余命半年。

そんな話を母から聞いたけど、本当に祖母が亡くなるなんて思っていなかった。
人はいつか必ず死んでしまう、だけど家族が死んでしまうなんて…
死なないと思っていたわけではないけど、それに近い感情があったことを知った。

母から葬儀の相談についてきてほしいと連絡があった。
あまり乗り気はしなかったものの一緒に行くことにした。

当日、母と叔母と3人で向かった。
祖母がここの会員になっていたようだ。
母も叔母も知ってはいたが詳しい内容を知らなかったそうで、一から説明を受ける。
一般葬や家族葬、火葬式などの説明を受けた。
その中で【旅葬】というプランがあった。

旅葬…

話はどんどん進んでいるけど私は旅葬が気になってパンフレットに目を通す。
その中で想い出の物語というページに目が留まった。

▪故郷の今金に連れて行った方
▪兄弟に会いに小樽、余市に行った方
▪羽幌町の友人に会いに行った方
▪父が愛した思い出の地へ行った方

祖母には行きたいと言っていた場所がある。
菜の花畑。
実は千利休の好きだった花が菜の花なのだ。

【最期に祖母と一緒に行きたい】

自宅に戻ってから母に私の思いを伝えた。
少し考えて妹にも相談してみると言ってくれた。

祖母は医師の診断よりも早い、3ヶ月で旅立った。
そう、雪解けが済んだ菜の花の時期に。

きっと菜の花が見たくて早く逝ってしまったんだね。

母と叔母も菜の花畑に行くことを了承してくれた。
出発の日、自宅を出るとき、気付いたら涙があふれてきた。

【出発したら、次この家に帰ってくる時にはお骨になってるんだ…】

『おばあちゃん大丈夫だよ。みんなで一緒に行こう』

バスの中では祖母の生い立ちムービーが流れている。
若い頃からキレイだった祖母、母と叔母も若い。

ほどなくして安平町の菜の花畑に着いた。
青い空に映える黄色の絨毯。

『おばあちゃん、すごいね。菜の花ってキレイだね』