約束の地へ~最期の家族旅行~ | 旅葬・葬儀・家族葬の巡輪偲(じゅんりんさい)

プレスリリース

約束の地へ~最期の家族旅行~

私には母との約束がある。

私は札幌の大学を卒業後、東京で就職した。
父は料理人で知床に単身赴任中、弟は札幌で1人暮らしの会社員。
自宅には母しか住んでいないが、父は連休があると必ず帰っていた。
私も定期的に帰ってきており、自然と3ヶ月に1度は全員が集まっていた。

母は8年前に乳がんの手術を受けている。

毎年検査を受け、手術から5年が経ったときは家族全員で喜んだ。
医師からも寛解との診断を受けた。
もちろん、気を緩める事なく毎年必ず検査を受けていた。

そんな日常が、父からの電話で一変した。

『母さん、また乳がんになった。肺や肝臓にも転移してて、手術もできないって。』

返事をできないでいると、父が話を続けた。

『コロナで面会もできないんだ』

言葉は何も出てこない。
ただ涙だけが流れた。

返信も既読もつかないが、毎日母にLINEを送る。
今日あった事、嬉しかった事、悲しかった事、そして母への想い。

お母さん…

そして、父から余命1か月との連絡が来た。

最後に会いたいと伝えた。
来道してから2週間たたないと会えないと言われ、その日のうちに北海道へ向かった。

コロナが蔓延しだした頃、母の病院でクラスターが起きた。
感染を避けるべく、定期検査を先延ばしにしていたようだ。

口には出さないが、父は後悔している。
自分のせいだと…

飛行機から降りて、電源を入れた。
父から何度も電話が来ている。

母が亡くなったとの連絡であった。

何だか実感がわかない。
自宅についたら、いつものように出迎えてくれるのではないか。
そんな思いで実家に向かった。

母の顔を見て初めて涙が出た。

本当に死んでしまったんだ。
もう一緒に笑う事も話す事もできないんだ。

伝えたい事、何一つ伝えられていないのに。

翌日、お葬式の打合せをした。

スタッフさんがおもむろに、【旅葬】というプランを説明した。
気づいたら涙が出ていた。

『母と一緒に行くと約束していた場所があるんです』

観光に行った先で手水舎にお花が浮かんでいる神社を見つけた。
とても神秘的で母に写真を送ったところ、行きたいと言っていた。
コロナが落ち着いたら、北海道に帰るからその時に行こうと約束していた。

この3年間母に会うことができず、そのまま亡くなってしまった母との約束を叶えたかった。
父も賛成してくれた。

出発の日の朝、自宅を出る前にスタッフの方が家族だけの時間を作ってくれた。
誰も言葉は発さない。

母の頬に触れると、とても冷たい。
父も弟も私も、何度も何度も母の手を握った。

母と過ごした時間は短かったかもしれない。
だけど、私たちには沢山の想い出がある。

そして今日も新しい想い出を創りに出かける。

最期はみんなで笑顔で過ごしたい。
泣いてても良いから笑顔で。