1日葬
80代
友人
女性
故郷
最期の想い出作り
母
無宗教
父と母は子どもから見ても恥ずかしいほど仲が良かった。
母の時代には珍しく恋愛結婚で、しかも母からアプローチしたらしい。
また驚きなのが母が高等学校生で父は社会人、7歳差である。
自宅近くの建築工事に父が来ていた。
母はそこで石積みのアルバイトをしていた時に一目ぼれしたらしい。
父は20年前に亡くなった。
前日まではいつもの変わらなかった。
たけど、翌日の朝、目を覚ますことはなかった。脳梗塞。
私たち家族にとって暗黒時代。
涙しか出なかった。いや、涙も出ていなかったかもしれない。
母は父が亡くなってビールを飲まなくなった。
毎日、父とふたり大好きなビールで晩酌していた母が。
亡くなる前日、いつものように
『母さんビールが飲みたいな』
『実は明日ビールの特売日なの。沢山買ってくるから今日は焼酎で我慢して』
主婦なら当然少しでも安く買いたい。明日夫が死んでしまうなんて考えもしないから。
母の悲しみ、後悔。
母の葬儀は笑って送りだしたい。
よくある言葉かもしれない。
けど私は本気だ。作った笑顔ではなく心からの笑顔で送り出す。
そして、やっぱり生まれ故郷に、父と母が出会ったあの場所へ連れて行ってあげたい。
故郷には何年も会えていない母の姉と弟もいる。
故郷に住む母の高齢の姉に会えた、育ての親でもあった。
弟は車で家族の思い出を案内してくれた。高等学校の友人にも会えた。
母が生まれ育ったこの町は、温かさであふれていた
この町で私たち家族が始まった。
父と母が出会った橋を見つめる孫の姿を生涯忘れることはないだろう。